先生方からの応援メッセージ
運動することの価値は、食事療法によって減った体重を維持しやすくすることにあります。
勝川 史憲 先生
慶應義塾大学 スポーツ医学研究センター 所長/教授
糖尿病とスポーツ医学を専門とされ、肥満症の診療に長く取り組まれている勝川先生に、肥満症の治療における運動療法の位置付けや、その具体的方法について伺いました。
肥満症における運動療法の位置付け
肥満症の治療の目的は、体重を減らすことではなく、体重が多いことで引き起こされる高血圧や脂質異常症、糖尿病などの合併症を改善することにあります。体重を数パーセント減らすことで検査値の改善が認められることが明らかとなっています。
しかし、運動だけで体重を減らすことは大変です。運動することの価値は、食事療法によって減った体重を維持しやすくすることにあります。また、もし体重が減らなかったとしても、運動をすること自体が合併症によいことも知られていますので、あまり体重にこだわり過ぎないという姿勢も大切です。
肥満症における運動療法の実際
運動療法のポイントは、とにかくエネルギー消費を増やすことです。ですから、エネルギー消費を増やすための有酸素運動が主体となります。肥満の方は体重を支えるための筋肉量が多いので、筋肉をつけるためのレジスタンス運動の必要性は低いと言えます。肥満の方では、体脂肪と筋肉を3:1程度の割合で減らしていくことで、肥満でない方の体組成に近づいていきます。
具体的にまずはウォーキングから始めます。ウォーキングは誰でも気軽に取り組むことができ、歩いた「時間」と「強度」と「頻度」からエネルギー消費量を決めやすいためです。その際、歩数計(スマートフォンの歩数計アプリもあります)を使って歩数を記録しておくと、運動の量を数字で捉えられ、その推移もみることができます。
半年程度、ウォーキングに取り組み、体が動くようになったら、自分の好きな運動を行うこともお勧めします。格闘技でも、ダンスでも何でも構いません。好きであることが大切です。人は好きなことには時間を忘れて取り組むことができるからです。
お付き合いが20年以上になる患者さんもいらっしゃいます
その男性会社員の患者さんは30歳代中ごろに100kgちょっとの体重で来院されました。身長は180cm台でBMIは30を少しオーバーしています。お話を聞いた上で、食事療法を指導し、まずはウォーキングから始めていただきました。すると半年で5%以上の減量が得られました。しかし安心したのもつかの間、あっという間のリバウンドで体重が120kg近くにまで増えてしまったのです。これは、当初行っていた食事療法が、時間の経過とともにおろそかになったためと考えられました。運動だけではなかなか痩せられないという典型例でした。
さらに詳しくあなたのBMIは?
それでもこの方はあきらめず、仕事のストレス解消にもなると、ジム通いを始められました。ジムでの運動量は、ウォーキングに比べてはるかに多かったため、体重は再び減少に転じました。結果的に90kg台半ばに落ち着いて、その後、50歳代になる現在まで20年近くジムでの運動を続けながらその体重を維持しています。
時には手術をお勧めすることも
これまでの経験として、BMIが36.5を超えている場合、一旦減量に成功しても、ほとんどの場合、リバウンドが起こります。一生懸命、食事療法、運動療法に取り組んでも、結果的に5年後にはリバウンドして元の体重よりも重くなり、その後は治療意欲を失ってしまうケースを多くみています。そのような方には最初から肥満症外科手術をお勧めすることもあります。
患者さんを全体的に診た上で、薬物療法、外科療法も含めて最も適した治療法をご紹介します。
さらに詳しく高度肥満症?
医師は、肥満症治療のペースメーカー
肥満症の患者さんとは、長いお付き合いになります。先ほどの患者さんは、体重はコントロールされているものの、高血圧で薬を服用されています。また、営業職ということでお酒の量はなかなか減らせていません。つまり、なかなか完璧にはいかないというのが生活習慣病治療、肥満症治療の現実です。
長きにわたる治療では、伴走者が必要です。体重が減れば一緒に喜び、増えてくればその理由と対策を考えます。肥満に悩まれている方は、ぜひ一度、肥満症専門医にご相談いただき、長きにわたる治療のペースメーカーとしてお付き合いいただければと思います。